相続放棄ができない場合とは?専門家が解説する注意点と対処法

相続放棄は、被相続人の財産や債務を一切引き継がない選択肢です。しかし、特定の状況下では相続放棄が認められないケースがあります。この記事では、相続放棄ができない場合の具体例や注意点、対処法について解説します。ぜひご一読ください。

 

相続放棄の基本知識

相続放棄

相続放棄を検討する前に、その基本的な概念と手続きを理解することが重要です。ここでは、相続放棄の定義や手順、そのメリットとデメリットについて説明します。

 

相続放棄とは

相続放棄とは、相続人が被相続人の財産や債務を一切相続しない選択をすることです。相続放棄をすると法律上、最初から相続人ではなかったものとみなされます。これにより、プラスの財産もマイナスの財産(債務)も引き継ぐ必要がなくなります。

 

相続放棄の手続き

相続放棄の手続きは、相続開始を知った日から3ヶ月以内に行う必要があります。被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述し、相続放棄申述書と必要書類を提出します。手続きが完了すると、家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が送られてきます。

 

相続放棄のメリットとデメリット

相続放棄のメリットは、被相続人の債務を引き継がなくて済むことと、相続に関する手続きや管理の負担がなくなることです。一方、デメリットとしては、プラスの財産も一切相続できなくなることと、一度相続放棄すると撤回はほぼ不可能という点があります。

 

相続放棄ができない主なケース

相続放棄は常に認められるわけではありません。ここでは、相続放棄ができない主な状況について詳しく説明します。

 

単純承認が成立してしまった場合

単純承認とは、被相続人の財産と債務を全て引き継ぐことです。相続財産を処分したり、使用したり、遺産分割協議書に署名・捺印したりすると、単純承認したとみなされ、相続放棄はできなくなります。例えば、被相続人の預金口座から引き出しをしたり、不動産を売却したりすると単純承認とみなされます。

 

熟慮期間を過ぎてしまった場合

熟慮期間とは、相続人が相続の承認や放棄を決めるための期間です。原則として、相続開始を知った日から3ヶ月以内に相続放棄の手続きをしなければなりません。この期間を過ぎると、原則として相続放棄はできなくなります。

 

必要書類に不備がある場合

相続放棄の申述には、相続放棄申述書、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人の戸籍謄本、被相続人の住民票除票などの書類が必要です。これらの書類に不備があると、相続放棄が受理されない可能性があります。

 

単純承認とみなされる行為

単純承認とみなされる行為を詳しく理解することで、意図せず相続放棄の機会を失うことを防げます。ここでは、具体的な例を挙げて説明します。

 

相続財産の処分や使用

相続財産を処分したり使用したりすると、単純承認したとみなされます。被相続人の預金を引き出したり、被相続人名義の不動産を売却したり、被相続人の所有物を譲渡したりする行為が該当します。ただし、葬式費用の支払いや相続財産の保存に必要な行為は例外とされることもあります。

 

遺産分割協議への参加

遺産分割協議に参加し、協議書に署名・捺印すると、相続を承認したとみなされます。これは、協議に参加すること自体が相続人としての立場を認めることになるためです。

 

債務の一部返済

被相続人の債務の一部でも返済すると、相続を承認したとみなされます。例えば、被相続人のクレジットカードの請求書を支払うなどの行為が該当します。

 

熟慮期間を過ぎても相続放棄できる可能性

原則として熟慮期間を過ぎると相続放棄はできませんが、例外的に認められるケースもあります。ここでは、そのような可能性について説明します。

 

熟慮期間の延長をした場合

相続財産の調査を行っても相続財産の所在や構成が複雑で、調査調査が間に合わないような場合、熟慮期間中に家庭裁判所に熟慮期間の伸長の申立てを行えば、熟慮期間を延長できます。延長後さらに熟慮期間の伸長の申立てをすることも可能です。

 

借金の存在を後から知った場合

相続開始時、被相続人に相続財産が全く存在しないと相当な理由によって信じて、後になって借金の存在を知った場合も、熟慮期間の起算点が遅くなる可能性があります。この場合、借金の存在を知った時点から3ヶ月以内に相続放棄の手続きをすれば、認められる可能性があります。

 

相続放棄で失敗しないためのポイント

相続放棄を確実に行うためには、いくつかの重要なポイントがあります。ここでは、相続放棄で失敗しないための注意点を解説します。

 

早期の財産調査と意思決定

相続開始を知ったら、できるだけ早く被相続人の財産状況を調査しましょう。プラスの財産とマイナスの財産(債務)を把握することで、相続放棄すべきかどうかの判断材料となります。調査方法としては、被相続人の通帳や預金証書の確認、不動産登記簿の確認、税務署での相続税の申告書の閲覧、金融機関への照会などがあります。これらの調査には時間がかかる場合もあるため、早めに着手することが重要です。

 

相続財産に手をつけない

相続放棄を検討している場合、相続財産には一切手をつけないようにしましょう。被相続人の預金を引き出したり、不動産を利用・処分したり、借金を返済したりする行為は避けるべきです。これらの行為は単純承認とみなされる可能性が高いため、慎重に行動することが大切です。

 

専門家への相談

相続放棄は複雑な法律問題を含むため、専門家への相談が有効です。司法書士や弁護士などの専門家に相談することで、相続財産の正確な把握、相続放棄の是非の判断、適切な手続きの指導などのサポートを受けられます。専門家のアドバイスを得ることで、相続放棄の失敗リスクを大幅に減らせます。

 

相続放棄が認められなかった場合の対処法

相続放棄の申述が受理されなかった場合でも、対処法があります。ここでは、そのような状況での選択肢について説明します。

 

即時抗告の手続き

相続放棄の申述が却下された場合、即時抗告という手段があります。即時抗告とは、家庭裁判所の決定に不服がある場合に、高等裁判所に再審理を求める手続きです。却下の決定を受けた日から2週間以内に、却下の決定をした家庭裁判所に抗告状を提出します。その後、高等裁判所で審理されます。即時抗告では、相続放棄が認められるべき理由を明確に示す必要があります。専門家のサポートを受けることで、成功の可能性が高まります。

 

限定承認の検討

プラス財産とマイナス財産でどちらが多いか判明しないような場合、限定承認という選択肢もあります。限定承認とは、相続財産の範囲内でのみ被相続人の債務を弁済する方法です。限定承認のメリットとして、相続財産を超える債務の返済義務がなく、プラスの財産は相続できる点があります。一方、デメリットは、手続きが複雑で時間がかかることと、相続人全員の同意が必要な点です。限定承認は相続放棄より複雑な手続きですが、財産の調査に時間がかかりそうな場合、検討する価値があります。

 

まとめ

相続放棄は、被相続人の債務を引き継ぎたくない場合の有効な選択肢です。しかし、単純承認とみなされる行為をしてしまったり、熟慮期間を過ぎてしまったりすると、相続放棄はできなくなります。相続放棄を確実に行うためには、早期の財産調査と意思決定、相続財産に手をつけないこと、専門家への相談が重要です。これらを心がけることで、相続放棄の失敗リスクを大幅に減らせます。

 

また、相続放棄が認められなかった場合でも、即時抗告という対処法があります。相続に関する問題は複雑で個別性が高いため、専門家のアドバイスを受けることが望ましいでしょう。

 

相続放棄は一度行うと撤回はできません。慎重に検討し、適切な判断をすることが重要です。相続に関する疑問や不安がある場合は、早めに専門家に相談することをおすすめします。

 

司法書士法人しもいち事務所では、相続放棄を含む相続に関するあらゆる相談に対応しています。経験豊富な専門家が、お客様の状況に応じた最適な解決策を提案いたします。相続でお悩みの方は、お気軽に当事務所までご相談ください。